2010年12月23日木曜日

葡萄と郷愁

宮本輝の「葡萄と郷愁」を読みました.宮本輝の本を読むのは初めてでした.物語の展開が軽快で,非常に読みやすい本でした.あっという間に読み終えました.二人の女性が主人公で,東京の女性の話とブダペストの女性の話とが平行して進行します.いつかこの二つの物語がどこかで接するのかと思いましたが,結局接することはありませんでした.ただ単に,似た境遇の女性の話が平行して進められているだけでした.この点には少しがっかりさせられました.現在,ウィーンに住んでいるので,ブダペストには非常に興味があります.いつか行ってみたいと思っています.物語はまだソ連が崩壊する前の話です.そのため,ハンガリーはまだ民主化されておらず,その当時のブダペストの人たちの心境に軽く触れることが出来ます.

物語では二人の女性が人生の重大な岐路に立っており,どちらを選択するかで迷っています.東京の女性は外交官の卵と結婚するかしないか,ブダペストの女性は自由の国アメリカでアメリカ人の養子になるかならないかを迷っています.どちらの女性も学生です.ブダペストの女性からは,自分の力で自分の将来を切り開いていこうとがんばっている様子が伝わってきました.東京の女性もがんばってはいるのですが,好きな男性のためにがんぱってきただけ,という印象を受けました.結論が結論なので,わざとそのような女性として描いているのだと思いますが,その女性には共感を持ちませんでした.2つの物語の中にはこの二人の女子学生の人生だけでなく,いろいろな人の多様な人生が描かれており,様々な価値観が登場します.その中には一つぐらいは共感できる生き方が見つかるかもしれません.どちらの話しも面白かったのですが,ぼんやりしていたものがぼんやりしたまま終ってしまっている点は,何か物足りなさを感じさせました.

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